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繰延税金資産とは?仕分けや計算方法も徹底解説

企業会計上の収益と費用と、税務会計上の益金と損金ではそれを認識する期間にズレが生じることがあります。

繰延税金資産とは、イメージとして言うならば、企業会計と税務会計の間で期間的なズレが生じた場合、税務費用を適切に期間対応させる会計処理である「税効果会計」で使用される勘定科目です。

この記事では、繰延税金資産の特徴や関連する用語、また、取り崩しや計算方法や仕訳について詳しく解説していきます。

繰延税金資産とは?関連する用語を解説

繰延税金資産とは、 将来の税負担が軽減される額を資産として計上する勘定科目のイメージです。

「将来的に税負担を軽減する効果があることに資産価値がある」という理屈から、

資産として計上されます。

繰延税金資産を理解するためには「税効果会計」「永久差異と一時差異」という2つの用語を理解しなければなりません。

税効果会計、永久差異と一時差異について詳しく解説していきます。

税効果会計

税効果会計とは、企業会計と税務会計の税金費用の違いの調整を目的として行われるものです。

企業会計は企業の内部や外部へ公表することを目的として行われる会計で、税務会計とは法人税などの税金の支払いを目的として行われる会計です。

収益、費用は企業会計で出てくる用語、益金、損金は税務会計で出てくる用語で、それぞれの内容は基本的に同じなのですが、たまに差異がでることがあります。

また、認識するタイミングが異なることがあり、2つの内容に差異が生じることがあります。

この差異を調整するための会計のことを税効果会計と言います。

永久差異と一時差異

企業会計と税務会計では、収益と費用、益金と損金の認識の違いによってズレが生じることがあります。

このうち、認識するタイミングが違うだけで、やがてはズレが解消されるものを一時差異と言います。

一方、ズレが解消されず永久的に差異が解消されないものを永久差異と言います。

税効果会計では一時差異を解消することに注目します。

認識時期がズレてしまうことによって、法人税の金額が、企業会計の利益に対応しなくなるため、税効果会計によって調整します。

例えば、企業会計上の当期利益が2億円、税務会計上の当期利益が3億円、法人税の実効税率が30%の場合、税務会計から計算される法人税は3億円×30%=9千万円です。

しかし、企業会計から計算される法人税は2億円×30%=6千万となるので3千万円の差異が生じます。

この違いは、企業会計と税務会計で収益(益金)と費用(損金)を認識するタイミングの違いなどから生じるものですので、あたかも将来3千万の税金が減額されるものとして、「繰延税金資産」と「法人税等調整額」を3千万円認識し、企業会計上の当期利益と法人税が対応したものへと調整します。

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繰延税金資産の取り崩しとは?

繰延税金資産は、将来的に企業会計と税務会計のズレが解消されると、企業会計上でも繰延税金資産を取り崩してズレを解消します。

しかし、企業会計と税務会計のズレが解消していないにもかかわらず、取り崩しを行うケースがあります。

ズレが解消されていないにも関わらず、繰延税金資産を取り崩すのはどのような理由なのでしょうか?

繰延税金資産を取り崩すケースとは?

繰延税金資産を取り崩すケースは、将来的に税金を減額できるだけの課税所得が見込めなくなった時です。

繰延税金資産は、「税金の前払い分の資産として認識し、将来的に前払いした税金分が取り崩され、税金が減額された時」に取り崩すものです。

しかし、急激な業績悪化などによって減額分以上の法人税が発生しない場合には、そもそも減額する税金が発生しないので、繰延税金資産を取り崩すことになります。

例えばコロナ禍などでは、業績が急激に悪化して、将来的な課税所得が見込めなくなったとして、多くの大企業が繰延税金資産の取り崩しを行いました。

取り崩しの影響とは?

繰延税金資産を取り崩すと「費用が膨らんでしまう」という影響があります。

繰延税金資産を取り崩す際には、取り崩した金額分の費用を計上しなければなりません。

取り崩しが少額であれば、企業の決算に大きな影響はないかもしれません。

しかし取り崩しが高額の場合には、取り崩しによって企業が赤字に転落する可能性があります。

繰延税金資産の取り崩しは企業にとって現金が流出する費用ではないので、資金繰りには影響ありません。

しかし急激な業績悪化に加えて、取り崩し額が高額になると、企業は一気に大幅な赤字に転落してしまうことがあります。

取り崩しによって本来の利益よりも赤字が拡大してしまうことが非常に大きな問題です。

繰延税金資産の対象になるものとならないものとは?

繰延税金資産の対象ですが、すべての税金の支払いが認められるわけではありません。

繰延税金資産は企業会計と税務会計のズレを調整するためのものですので、利益を課税標準にした法人税などの税金が対象になります。

そのため、次のような税金は繰延税金資産の対象にはなりません。

  • 利益を課税標準としない住民税の均等割
  • 課税基準が収入の事業税
  • 事業税の付加価値割と資本割
  • 事業所税

繰延税金資産の計算方法

繰延税金資産の計算方法を詳しく解説していきます。

繰延税金資産の計算方法を理解するためには、法定実効税率を理解しておかなければなりません。

法定実効税率と繰延税金資産の計算式を詳しく解説していきます。

法定実効税率とは

繰延税金資産を求めるのであれば、最初に法定実行税率を計算しなければなりません。

法人税は課税所得×法人税の実効税率で計算するので、法定実効税率を計算できなければ、法人税を求めることは不可能です。

法定実効税率の計算式は次の通りです。

法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率}÷(1+事業税率)

法人住民税率と事業税率は、会社の規模、所在地などによって異なるのでまずは会社が所在する自治体などに確認してみましょう。

繰延税金資産の計算式

繰延税金資産の計算式は次のとおりです。

繰延税金資産=将来減算一時差異×法定実効税率

繰延税金資産は、将来減算される一時差異に法定実行税率を乗じて計算します。

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繰延税金資産の仕訳

繰延税金資産の仕訳は次のように行います。

繰延税金資産を計上した際の仕訳は次の通りです。

借方 貸方
繰延税金資産 20万円 法人税等調整額 20万円

法人税等調整額という収益と繰延税金資産を計上する仕訳を行います。

繰延税金資産を取り崩した際の仕訳は次の通りです。

借方 貸方
法人税等調整額 20万円 繰延税金資産 20万円

 

繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産を計上するためには、当該繰延税金資産の回収可能性について検討する必要があります。

回収可能性がない繰延税金資産は計上することができないので注意が必要です。

回収可能性とは何かという点と、回収可能性を算定する方法とともに詳しく見ていきましょう。

回収可能性とは

繰延税金資産の回収可能性とは、繰延税金資産を将来的に回収できる(=税金を減額できるイメージ)可能性です。

回収できる可能性がない場合には、繰延税金資産を回収することはできません。

企業会計と税務会計の間で、将来減算一時差異が生じたとしても、必ずしも繰延税金資産を計上できるとは限りません。

回収可能性を判断し、回収可能性が認められた場合のみ、繰延税金資産を計上します。

企業分類に応じた回収可能性の取り扱い

繰延税金資産に回収可能性があるかどうかの判断基準は企業会計基準において業種ごとに次のように定められています。

分類 要件 回収可能性が認められる範囲
分類1 ・過去3年間と当期末に将来減算一時差異を十分に上回る課税所得がある

・経営環境に著しい変化はないと見込まれている

全額が回収可能性を認められる
分類2 ・臨時的な原因を除き過去3年間と当期末に安定して課税所得が生じている

・経営環境に著しい変化はないと見込まれている

・過去3年間と当期末までに重要な税務上の欠損金がない

スケジューリング不能なものを除き原則回収可能性が認められる

(ただし、スケジューリング不能であっても回収可能性について合理的な根拠をもって説明できるものについては例外的に認められる)

分類3 ・臨時的な原因を除き過去3年間と当期末の課税所得が大きく増減している

・過去3年間と当期末までに重要な税務上の欠損金がない

おおむね5年以内のスケジューリングに基づき原則回収可能性が認められる

(ただし、5年超であっても回収可能性について合理的な根拠をもって説明できるものについては例外的に認められる)

分類4 以下のいずれかを満たし、翌期に一時差異等加減算前課税所得が見込まれる

・過去3年間と当期末までに重要な税務上の欠損金が生じた

・過去3年間に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れがあった

・当期末に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる

原則回収可能性が認められるのは翌期の見積課税所得の範囲内

(ただし、翌期以降のもののうち、回収可能性について合理的な根拠をもって説明できるものについては、その程度に応じて分類2または分類3に準じた取り扱いが可能)

分類5 ・過去3年と当期末すべてで重要な税務上の欠損金が生じている

・翌期も重要な税務上の欠損金が見込まれる

回収可能性はいずれも認められない
その他 分類1~5のいずれにも該当しない場合

過去の課税所得の推移など総合的に判断し、1~5のうちもっともかい離の少ないものに分類する

1~5の分類に準じる

回収可能性については、上記の分類で判定するのが基本です。

例えば、『過去3年と当期末すべてで重要な税務上の欠損金が生じている』というケースにおいては分類5に該当するので回収可能性は認められないと判断でき、繰延税金資産を計上することはできません。

回収可能性がなくなった場合の処理

回収可能性がなくなった場合は、繰延税金資産を取り崩さなければなりません。

繰延税金資産は回収可能性が失われた時点で取り崩さなければならないことが決められています。

業績が著しく悪化した場合、すなわち、課税所得が見込めなくなった場合には繰延税金資産を取り崩す仕訳をしなければならない点を把握しておきましょう。

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まとめ

繰延税金資産とは、企業会計と税務会計に一時差異が生じた際に、この差異を調整するための税効果会計で使用する勘定科目です。

差異が解消された時には取り崩しますが、急激に大きな損失が生じた場合などで将来的に取り崩す可能性が低くなった場合も繰延税金資産は取り崩すことがあります。

この場合には、取り崩しによって費用が増大し、赤字が大きく膨らむリスクもあります。

繰延税金資産を計上できるのは回収可能性がある場合に限られます。

回収可能性を十分に検討した上で繰延税金資産を計上してください。

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